女性医師が徹底解説!夏の紫外線対策シリーズ Part.1 基礎知識編
紫外線がお肌に及ぼす影響について、皆様はどのくらいご存知でしょうか?
「シミの原因になるから」「お肌に悪そうだから」というような漠然とした感覚で、なんとなく紫外線対策を行ってはいませんか?
紫外線対策シリーズPart1では、紫外線対策を行う上で知っておいていただきたい基礎知識についてご説明しようと思います(このシリーズが全3編の予定です)。
紫外線=夏というイメージかもしれませんが、実は紫外線対策は一年中、そして室内でも必要なのです!
この記事を読めば、その理由もおわかりいただけますので、きっと効果的な紫外線ケアに繋がるはずですよ。
紫外線って?
紫外線は太陽から発せられる光線の一種。英語ではultravioletというため、よくUVと略されます。
太陽からは紫外線以外にも色々な光線が発生しており、さらに紫外線にも種類があるので、簡単にご説明していきます。
太陽光線の種類
太陽からは、波長によって異なる5つの光線(ガンマ線、X線、紫外線、可視光線、赤外線)が放出されています。波長が短いほどエネルギーが強く、皮膚へのダメージが大きくなります。
そのうち、ガンマ線、レントゲン検査に使用されるX線、そして紫外線の一部(C紫外線、UV-C)は地上約20~25kmのところにある成層圏オゾン(オゾン層)で吸収されるため、地表には届きません。
ですから、これらは私たちの日常生活に影響がないと考えられています。
しかし、一昔前から言われているように、フロンガス等によるオゾン層の破壊、オゾンホールの拡大により、地表に届かないとされる有害な紫外線C波や紫外線B波の一部を浴びてしまう危険性が高くなっているという事実に注意しておかなければなりません。
続いて、紫外線の種類について見てみましょう。
紫外線の種類
紫外線は、その波長の長さにより3つに分けられます。紫外線A波と紫外線B波がそれぞれお肌に与える影響については別の項「紫外線が身体に及ぼす悪い影響」で詳しくご説明しますね。
紫外線A波:UV-A
紫外線の中では最も波長が長く、315~400nmの長波長紫外線です。大気による吸収をあまり受けず、地表に達します。
紫外線B波と比較すると、人間に与える影響は小さいとされています。波長が長いためエネルギーは弱いものですが、お肌への透過度は高くなります。
そのため、長時間浴びてしまうとお肌へ悪影響を及ぼす可能性があります。太陽からの日射しにおける割合は5.6%程度です。
紫外線B波:UV-B
280~315nmの中波長紫外線です。成層圏オゾンにより一部分が吸収され、残ったものが地表に到達します。
紫外線A波と比べて波長が短く、エネルギーが大きいため、お肌や眼などへのダメージが大きくなります。
日焼けや皮膚ガンの原因となるのも、この紫外線B波です。太陽からの日射しにおける割合は0.5%程度とされています。
紫外線C波:UV-C
紫外線の中で最も波長が短い、100~280nmの短波長紫外線です。成層圏またはそれより上空のオゾンや酸素分子によって全てが吸収され、基本的に地表に到達することはないとされています。
紫外線の強さと量
時刻や季節、天候、大気中(成層圏)のオゾン量によって大きく変わります。気象条件が同じだった場合、太陽が頭の真上にあるほど、紫外線が強くなります。
紫外線が最も強くなるのは、時刻としては正午あたり、季節としては6月から8月にかけての時期です。
標高も紫外線の強さに影響します。標高の高いところでは空気が薄いため、より強い紫外線を浴びることになります。
また、弱い紫外線を長時間浴びた場合の紫外線量は、強い紫外線を短時間浴びた場合と同じくらいになることもあります。紫外線の強さと浴びる時間に注意しましょう。
UVインデックス(UV指標)
聴きなれない言葉かもしれませんね。定義としては、UVインデックス=CIE 紅斑紫外線強度(mW/m2)/ 25で求められます。
CIE紅斑紫外線強度というのは、国際照明委員会(Commission Internationale de l’Eclairage)が、人間のお肌に対する波長ごとの影響を考慮し、重み付けをして足し合わせたものです。
要するに、人体への影響度を示す紫外線の強さの指標だと考えていただければよろしいかと思います。
UVインデックスは、世界保健機関(WHO)が推奨する紫外線対策に活用されており、日本の環境省から刊行されている「紫外線環境保健マニュアル」の中でも紫外線対策の指標として用いられています。
UVインデックスの数値が高いほど、人体にとって有害だということになります。
UVインデックスが3以上の場合はできる限り日射しを浴びないように注意し、8以上の場合にはできるだけ日中の外出を控え、お出かけの際には必ず衣類や帽子、日焼け止めなどで紫外線対策を行うようにといった具体的な対処方法が提示されています。
気象庁では、毎日の紫外線対策を効果的に実施できるよう、UVインデックスを用いた紫外線情報を提供しているので、ホームページをチェックしてみるのもオススメです。
月別のUVインデックス
※気象庁HP「日最大UVインデックス(推定値)の月別累年平均値グラフ(東京)」を元に作成
太陽の光が燦々と降り注ぐ夏。
さぞ紫外線の量も増えるだろうと思いますよね?
はい、正解です。
この図は東京におけるUVインデックスの累年平均値を月別に表したものです。
予想通り、7~8月に高い数値を示していることがわかります。
暑い季節ほどUVインデックスは高く、寒い季節は低くなっていますよね。しかし、記事の冒頭で、紫外線対策は一年を通して必要だと申し上げました。
その理由はどうしてでしょうか?
実は、7~8月に特に強くなるのはUV-Bであり、UV-Aは4~9月まで強い期間が続き、冬の間も約半分までしか減少しないからです。
普通の日常生活で浴びてしまうUV-Aは、年間を通じての変動が少ないため、紫外線対策は夏だけ行えばよいという考えは危険です。
夏にレジャーに出かける際には、おそらくほとんどの方がしっかりと紫外線対策をするのではないでしょうか。ですが、毎日の生活におけるUV-Aにも気を配っていただきたいと思います。
それに、冬でも雪面による反射光で紫外線量が増えますので、雪の多い地域にお住まいの方は特に注意してくださいね。
天気別のUVインデックス
※気象庁HP「快晴時のUVインデックスを100%とした場合の天気毎のUVインデックスの割合」を元に作成
雲は太陽光を遮断しますから、雲の量や状態、天候によっても紫外線量は大きく変わってきます。
この図は、快晴の日のUVインデックスを100%とした場合の天候ごとの割合を相対的に示しています。
晴れの日のUVインデックスは、快晴の日より少し低いくらいなので、ほぼ同じ紫外線量だと考えられます。
曇りの場合、雲のかかり方によって紫外線量は異なります。薄曇りの日のUVインデックスは快晴時の約80%になりますが、曇りの日だと快晴時の約60%まで低下します。
雨天の場合は、UVインデックスが快晴時の約30%となります。
天候による紫外線量が気になるときに、ある程度の目安にはなりそうですね。
ただし、UV-Aは雲を通り抜けてしまいますし、雲が比較的多くても雲の状態によって日射しを浴びたとき、快晴の場合よりもUVインデックスが高くなる可能性がありますので、油断は禁物です。
紫外線の影響
シミやシワの原因、ひいては皮膚ガンにも繋がるなど、悪い印象ばかり持たれがちな紫外線ですが、私たちの身体にとって必要な存在でもあるといわれてきました。
しかし、現在の美容においては‘紫外線はお肌に有害で、ガンを発生するリスクもあるため絶対に避ける’という考えが主流となっています。
紫外線が身体に及ぼす良い影響
消毒・殺菌作用
医療機関などにおいて器具についた微生物を除去するための滅菌装置に紫外線が使用されることがあります。
しかし、直接紫外線を浴びることは、お肌の消毒作用よりもダメージの方が大きく、リスクがあると考えます。
ビタミンDの合成
ビタミンDは主に、腸からのカルシウム吸収を増加させる働きを担っています。
ビタミンDが不足すると、カルシウムを摂取していても吸収が不十分となり、身体に必要なカルシウムが維持できなくなってしまいます。
そしてカルシウム不足になると、当然ながら骨が弱くなり、脚の形が悪くなってしまったり、骨折しやすくなったり、骨粗鬆症になったりする可能性があります。
つまりビタミンDは身体にとって必要な成分なのですが、食品には少量しか含まれておらず、十分量を摂取できないとされています。
そこで、紫外線を浴びることによりビタミンDを合成するという習慣が生まれました。
しかしながら、ビタミンD合成のために必要な紫外線はUV-Bであり、浴びていると日焼けをしてしまうのです。
日焼け止めを使用しながら浴びればよいのでは?と思ったそこのあなた。
非常に鋭い発想なのですが、残念なことにSPF30の日焼け止めを使用すると、ビタミンDの産生は5%以下に減少してしまうのです…。なんというもどかしさ。
ビタミンD合成のためには紫外線が必要なのに、紫外線を浴びるのはお肌にとって有害。
お肌へのダメージ覚悟で日光浴をするか、もしくはビタミンDのサプリを摂取することで紫外線を浴びずに済ませる、カルシウム不足を回避するためには、この2択になるかと思います。
ビタミンD合成のために日光浴をする方法を選択した場合。どの部位をどのくらいの長さ太陽に当てれば良いのか、という問題に直面します。
できれば最短時間で済ませたいですものね。
結論から申し上げますと、正解はないのです…。
その理由は、季節や天候、時刻、地域、お肌の色(スキンタイプ)など多くの要因によって必要な日光浴の時間は変わってしまうからです。
そこで便利なサイトを発見しました。
国立研究開発法人・国立環境研究所・地球環境研究センターのホームページに、『ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報』というものがありました。
日本人の標準的なスキンタイプを想定して、10μgのビタミンDを合成するために必要な日光浴の時間が、お肌の露出面積と時刻別でグラフになっています。
さらに、観測局がいくつかありますので、お住いの地域に最も近い場所のデータを参照することができます。
私がこの記事を書いている時点では、データ更新が一時停止中となっていましたが、機能してくれれば、お肌へのダメージを最小限に抑えた日光浴のために有効活用できそうです。
紫外線が身体に及ぼす悪い影響
この記事で最も理解しておいていただきたい基礎知識になります。眼に対する悪影響もあるのですが、何と言っても気になるのはお肌へのダメージですよね。
覚えていただきたいワードは「光老化」。
紫外線はお肌にとって最も悪影響を及ぼすとされ、アメリカの皮膚科学会では、老化の約80%が紫外線による影響、つまり光老化だと考えられているのです。
紫外線を浴びたお肌では、活性酸素が発生します。この活性酸素がお肌にダメージを与え、乾燥やシワ、たるみなどを引き起こし、光老化の原因となります。
紫外線A波(UV-A)の影響
生活紫外線とも呼ばれるUV-Aは、地表に達する紫外線の約90%を占めています。
波長が長いため、お肌の基底層から真皮中層にまで到達し、メラニンを生成する細胞メラノサイトの働きを活発にします。
雲やガラスを通り抜けてしまうので、日常生活を送っている間や、室内でも日当たりの良い場所にいる間は、知らないうちにUV-Aを浴びてしまうことになります。
また、UV-Aを長時間浴びると、紫外線からお肌を守ろうとする正常な防御反応としてサンタン(いわゆる日焼けでお肌が黒くなること)が起こります。
それだけでなく、UV-Aは真皮の細胞にダメージを与え、お肌のハリを保つコラーゲンやエラスチンを変性させ、シワやたるみを引き起こします。
さらに、以前UV-Aには発ガン性がないとされてきましたが、最近の研究では発ガン性を促進する作用があることが判明しました。
日々の生活で浴びやすい紫外線であることからも、より注意が必要なのではないでしょうか。
従って、UV-BをカットするSPF値だけに着目した日焼け止めではなく、UV-AをカットするPA値が重要であると私は考えます。
紫外線B波(UV-B)の影響
レジャー紫外線とも呼ばれるのがUV-Bです。エネルギーが高く、大気中の水分で吸収されてしまうため、地表に届くUV-Bはごくわずかなのですが、散乱しやすいので全方向からお肌に当たります。
中波長紫外線なので、一部は真皮まで到達しますが、主に表皮にダメージを与えます。
直接的にお肌を刺激し、細胞の遺伝子の損傷を引き起こすため、皮膚ガンの原因となる可能性があります。
一般的な日焼けの原因となるのも、このUV-Bである場合がほとんどです。
シミやそばかすの原因となる皮膚の黒化であるサンタンはもちろん、赤く炎症を起こして、重度の場合には水泡をつくったりするサンバーン(紫外線によるヤケド)も起こります。
そこまでの症状が出現しなくても、角質層の水分を減少させ、お肌の乾燥や肌荒れの原因となることもあります。
SPF値が高いほど、UV-Bによるサンバーンが起こるまでの時間を長引かせることができます。
日射しだけじゃない!全方向からの紫外線に注意!
※気象庁HP「地表面の反射と紫外線」を元に作成
太陽から降り注ぐ紫外線だけをカットすれば良いと思ってはいませんか?実は、紫外線はあらゆる方向から私たちを狙っているのです。
図のように、屋外にいる場合では、空から地上に届く紫外線(太陽からの直射光と大気中での散乱光)だけでなく、地表で反射された紫外線も浴びることになります。
注意していただきたい点として、UVインデックスは、空から地上に届く紫外線のみを示しているということが挙げられます。
UVインデックスを紫外線対策の目安として活用するときには、反射光による紫外線もその数値に加えて考えてくださいね。
地表面から反射する紫外線
地表面で紫外線がどのくらい反射するかという割合は、地面の状態によって大きく異なります。
アスファルトや草地・土では多くても10%程度の反射率になります。一方、水面での反射率は最大20%、砂浜は最大25%、新雪だと80%にまで上がります。
海やスキー場などレジャーの際に浴びる紫外線は日常生活よりも多い、ということが、数字からもイメージしていただけるかと思います。
さらに困ったことに、地表面で反射した紫外線の一部は上へと向かい、大気中で散乱されて再び地表へと戻ってくるのです。
ですから、地表面の反射率が大きい場所では、反射率が小さい場所と比べて、散乱による紫外線も強くなりますので、よりしっかりとした紫外線対策が必要となります。
太陽からの直射光による紫外線に対して、帽子や日傘などを利用することは効果的ですが、反射光、散乱光による紫外線に対する対策も忘れてはならないポイントですね。
反射率 | |
---|---|
新 雪 | 80% |
砂 浜 | 10~25% |
アスファルト | 10% |
水 面 | 10~20% |
草地・土 | 10%以下 |
※環境省「紫外線環境保健マニュアル2015」より出典
これからの季節に向けて、あるいは常日頃、女性が最も気になる美容テーマのひとつである紫外線対策。
シリーズものとして、今回は紫外線にまつわるエトセトラ、基礎知識についてご説明させていただきました。
なんだか学校の授業のようで退屈だったかもしれませんが…
図や表をまじえて、できる限りわかりやすく解説したつもりなので、その思いが伝わることを願っております(笑)
紫外線の原理や性質を認識しておけば、より効果的な紫外線対策につながります。効果的な紫外線対策は、ひいては私たちが大好きな美肌・美白につながります。
常に気を張って紫外線対策をしていたら疲れてしまいませんか?
少なくとも私は、ポイントを押さえて効率よくやりたいな、と思っています。この紫外線対策シリーズが、みなさまにとって少しでもお役に立てると嬉しいです。
次回は具体的な紫外線対策の方法についてご説明する予定です。
ご期待くださいませ!
参考文献
- 日本化粧品検定1級対策テキスト 著・小西さやか(主婦の友社)
- 日本化粧品検定2級・3級対策テキスト 著・小西さやか(主婦の友社)
- 一般社団法人 日本コスメティック協会 検定テキスト コスメQ&A 第2版(中央書院)
- コスメティックQ&A事典 全面改訂最新版 (中央書院)
- 美容と皮膚の新常識 監修・戸田浄 (中央書院)
- 美容のヒフ科学 改訂9版 著・安田利顕 (南山堂)
- 環境省 紫外線環境保健マニュアル2015 → ホームページはこちら
- 気象庁|オゾン層・紫外線の知識 → ホームページはこちら
- ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報|地球環境研究センター → ホームページはこちら
著者プロフィール
脇坂 英理子
東京女子医科大学医学部を卒業。元々は麻酔科を專門としていたが、その後一般的な内科と美容内科・美容皮膚科も経験。現在は、医療・健康・美容などの知識を活かしライターとしても活躍中。
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